中川先生の「ためになる話」

初夏のイライラ

 さて、イライラの種について、今日は考えてみましょう。イライラというのは実は不安の裏返しでね。どうにも地に足がついてない感じなのかな?大学には少し慣れてきたけど、これでいいのかという不安が払拭出来なくて、何かに夢中になっている連中をみると、我が身と比べてイライラしてしまうというのが真相のようです。

 ある患者Aさんの場合は、苦しそうだった。ぼくがはじめてAさんに会ったのは、彼女が18才のとき、不安とイライラが強くて自分ではどうにもならなくて、ぼくのクリニックにやってきました。彼女は受験に失敗してたのですが、それはあまりショックではなかったようです。彼女は中学くらいまでアメリカで暮らしていたので英語はよく出来たのですが、他の教科ときたら、からっきしで、最初の受験に失敗したのも計算のうちでした。それでは何故それほど不安が高かったというと、彼女の目指す大学が超難関だったからです。つまり、彼女なりに勉強は続けているのですが、これでいいのか分からないのです。それでは予備校に行けばいいのに、現実を知るのが怖いというか逃げの姿勢なんです。特に数学の問題に向かうと頭が痛くなるとも、よく言ってました。薬を使ったりカウンセリング的にもやってみたけど、なかなか治らない。もう少し大学のランクを落としたらとアドバイスもするのだけど、事情があってそれも叶わないという。

そして、ダラダラ勉強を一人で続けるのだけど、これが長引いてね。あっという間に5年が経ちました。ある日、彼女と話していると自分の若い時のこと思い出しました。ぼくも数学はいい点が取れなかったんです。でも、自分で数学の出来ない人間と認めるのはあまりにも恐ろしくて・・だって、ぼくは一応理系の男子だったから(昔は理系男子で数学が出来ないのは恥だったんです)それで編み出した方法が「数学を勉強しないこと」だったんです。だって、一生懸命勉強して結果が出なかったら自分が駄目だということを証明することになるものね。そんな怖いこと出来ませんよ。でも、「数学の点数が取れないのは数学を勉強してないから」という理由があれば、少なくともプライドだけは守れるもの。でもね、追い詰められちゃって、やらざるを得なくなって、清水の舞台から飛び降りたわけですよ。結果が何とかなったので、今に至っているのだけど、あれは一種のジレンマ状態ですね。プライドを取るか、飛び降りるか、どっちも嫌だけどね。この種のジレンマを心理学のほうでは『セルフ・ハンディキャッピング理論』と呼びます。つまり自分にハンディキャップを被せてプライドを守ろうとするのです。このメカニズムを発動させている限り絶対、何かに夢中になったり達成はあり得ません。ここは歯を食いしばって飛んでみるしかないんです。あなたもセルフ・ハンディキャッピングやってませんか?

 え?Aさんはどうしたかですって?彼女もついに飛びましたよ。7年目に目指す大学に合格して、それから6年つい最近とうとう女医さんになりました。彼女によれば、セルフ・ハンディキャップはずしたら何も怖いものがなくなったそうです。

顧問医師:中川 晶
平成21年7月

中川晶先生プロフィール

中川晶先生プロフィール

 産経新聞の『中川晶の"生き方セラピー"』でご存知の方もおられると思います。
10年来お付き合いいただいている私共が言うのもなんですが、それはもう愉快な方で、一度語り始めると尽きることがないかのように実に幅広い、しかも有益で面白い話題が湧き出てくるのです。これはおそらく、一度や二度ではない挫折体験と、森羅万象に対する、特に人間に対するとてつもない興味がなせる技だと思えます。受験生についてもご自身の実体験と、臨床心理士としての深い洞察から、真の受験生の心の友となっていただけること請け合いです。先生のユニークで的を得たお話しを、お楽しみください。

  • 奈良学園大学保健医療学部教授
  • 大阪大学医学部講師
  • 心療内科医・臨床心理士
  • 京都大学講師
  • なかがわ中之島クリニック院長
  • 大阪医歯学院顧問医師
<著書・共著>
「心療内科のメルヘン・セラピー」(講談社)
「やすらぎが見つかる心理学」(PHP)
「心理療法」(朱鷺書房)
「ココロの健康からだの医学」(フォーラムA)父(故人)中川米造先生との共著 他

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