中川先生の「ためになる話」

脳の話

 毎日、受験勉強ご苦労様です。今日は脳の話です。怒ったり、泣いたり、喜んだり、落ち込んだり・・・
心というのはまことに変幻自在です。毎日多くの患者さんの悩みにつきあっていると不思議な気がします。
先週はこの世も終わりとばかり落ち込んでいた人が今週はケロリとしてこの世の春を謳歌したり、
そんなに怒るほどでもないのに激しい怒りのため危険なほど血圧が上がってしまったり、憂さ晴らしのつもりで 始めたネットゲームにはまり込んで一日中何も出来なくなってしまったり。
要するに自分の心なのにコントロールが効いてないんです。
 そりゃ患者さんだから仕方ないと言ってしまえばミもフタも無い話なんですけどね。
でも誰でもいつ何時患者さんになってしまうか知れたものではありません。 自分だけは大丈夫などというのは根拠のない慢心に他なりません。

 さて、心とは何かについては古今東西の宗教からはじまり哲学、心理学、行動科学など様々な分野の先人が多くを 語ってきてますが、要するに心とは脳という臓器のなかに張り巡らせた神経ネットワーク以上のものでも以下のもの でもありません。
とすれば、もう少し脳についてのミもフタもない生物学を知っておくことは、心のうつろいやすさ の正体に迫ることになるのではないでしょうか?

 どうも我々の脳は自分で思ってるほどタフなものではありません。理性的にものを考えたり分析する大脳新皮質 という場所より、もっと古い情動のセンターである大脳辺縁系という場所の方が強力です。
何故かというと進化の歴史からいうと大脳辺縁系のほうがよほど長い期間中心になって働いてきたわけで、 情動によって人類は生き抜いてきたようです。
つまりは理性などというものは、進化的にいえば、ほんの最近出てきた新参者に過ぎないわけです。

 例えば道ばたで毒蛇に出会ったとしましょう。
まずはヘビが目に入ります、目から入った情報は、視神経を通してまず視床という場所にきます。
その後、大脳の後ろ側の視覚野という場所に連絡があり、今度は大脳前頭部に連絡があります。
ここは様々な理性的な判断をする場所なので、毒蛇に関する知識が検索されて「こりゃ、危ない。逃げねば」 となり、足の筋肉に命令を与えて逃げるという動作に入ります。こう書いてる間に毒蛇に噛まれてしまいそうでしょ。
その通りなんです。合理的な判断を下す前に身体が動いてなければ毒蛇を避けることは出来ません。つまり「怖い」と 思った瞬間にはもう10歩くらい毒蛇から逃げているのが普通ですが、これは大脳辺縁系のお陰なんです。
つまり最初に視床に届いた「毒蛇だ」という情報は視覚野に送られると同時に視床のすぐそばの大脳辺縁系の一部である扁桃体という 場所にも送られます。
ここは情動のセンターで情報を分析もせずに即座に足の筋肉に命令を与えて、気がついたときは逃げてます。 つまり大脳辺縁系は行動に至る近道なのですが、世の中が複雑になってくると大脳辺縁系がうまく機能しません。
だって「怖い」と思った瞬間走り出したりしたら、交通事故を起こしかねないし、怒りを感じた瞬間に相手 をナイフで刺しているなんて怖いでしょ。

 ここまでひどくないにしても、我々の脳は情動で動いてしまいやすいことを普段から知っていれば、対策も立て やすいのです。受験生は例えば強い情動を感じたときは、行動に移る前に10数えてみるというのもいい方法です。
怒りを感じたら、相手から物理的にまず離れてみるというのもいい。つまり大脳辺縁系の興奮というのは爆発みたいな もので長続きはしないのが特徴です。うまく脳を運転していけば人生は少し楽になるかもしれませんよ。

顧問医師:中川 晶
平成24年8月

中川晶先生プロフィール

中川晶先生プロフィール

 産経新聞の『中川晶の"生き方セラピー"』でご存知の方もおられると思います。
10年来お付き合いいただいている私共が言うのもなんですが、それはもう愉快な方で、一度語り始めると尽きることがないかのように実に幅広い、しかも有益で面白い話題が湧き出てくるのです。これはおそらく、一度や二度ではない挫折体験と、森羅万象に対する、特に人間に対するとてつもない興味がなせる技だと思えます。受験生についてもご自身の実体験と、臨床心理士としての深い洞察から、真の受験生の心の友となっていただけること請け合いです。先生のユニークで的を得たお話しを、お楽しみください。

  • 奈良学園大学保健医療学部教授
  • 大阪大学医学部講師
  • 心療内科医・臨床心理士
  • 京都大学講師
  • なかがわ中之島クリニック院長
  • 大阪医歯学院顧問医師
<著書・共著>
「心療内科のメルヘン・セラピー」(講談社)
「やすらぎが見つかる心理学」(PHP)
「心理療法」(朱鷺書房)
「ココロの健康からだの医学」(フォーラムA)父(故人)中川米造先生との共著 他

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