中川先生の「ためになる話」

タイム・シフティング

タイム・シフティング 皆さんは今年、入学試験に不合格になって、「もっと勉強しておけば良かった」という後悔とか、「来年は果たして合格するのだろうか」という不安に苛まれているかもしれません。過去の後悔、未来の不安のことを悩みというのですが、今日は悩みとどうつきあえば良いのかを考えてみましょう。

 『タイム・シフティング』という本のなかに、面白い禅問答が載っています。アメリカ人の本で禅問答なんて変だし、本当の禅問答かどうかも怪しいけど、上手に「悩み」というものを表現していて面白いんです。


 昔、一人の僧侶が虎に追われて崖の縁まで追い詰められました。虎は崖や木を登ることが出来るが崖を下りることが出来ないこと知っていた僧侶は、さっそく崖を注意深く降り始めました。しばらく降りてから上を見上げると、件の虎が恨めしそうに僧侶を睨んでおりました。「さては助かったわい」と僧侶は胸をなで下ろしたそうです。ところが、僧侶がふと下を見ると、何と別の虎が僧侶を狙ってソロソロと崖をよじ登ってくるのだそうです。上に逃げれば先ほどの虎に食われるし、さりとてこのままここに居てもよじ登ってくる虎に食い殺されてしまいます。絶体絶命万事休すです。ふつうならパニック状況なのですが、この僧侶ふと手元の崖の岩の間に咲く野いちごを見つけます。これがとてもおいしそうで、その野いちごを口に含んでみたのだそうです。得も言われぬ良い香りがして、時間が無限になったそうです・・え?何の話かですって?禅問答ですから、ぼくもよく分かってないのかもしれません。でもね、崖まで追いかけてきた虎とは、自分の過去を表します。よじ登ってくる虎のほうは未来を表しています。我々はともすれば、過去への後悔(例えば、この道を来なければ虎に襲われることもなかったのに・・)と将来に対する不安(よじ登ってくる虎に食われてしまうという不安。まだ食われているわけでもないのに・・)にいつも苛まれてのではないでしょうか?僧侶のとった行動は意外なものでした。目の前の野いちごに意識を集中したのです。すると、過去や未来はどこかに飛んで時間が無限になりました。


 時間が無限になったというのは、過去や未来というものは実は無いということを言いたいようです。だって、過去ってもうすでに終わってしまっていることだから、どうしようもないし、どうもしなくていいのです。そして未来もまた無いんです。だって、まだやってきてないのですから存在しません。あるのは現在だけなのに、現在に意識を集中しなくて過去と未来に引き裂かれてしまっている状態が「悩み」というものの正体なんです。もちろん何とか苦しみから逃れようともがく気持ちは分からぬでもないですよ。でもね、もがけばもがくほど余計深みにはまってしまうのも事実なんです。こんな時は目の前にあるものや事柄に意識を集中することを考えてみませんか?目の前に集中することが、こころを「悩み」から解放するコツなんです。皆さんならば、目の前の勉強だけに集中することです。もう過去や未来に引っ張られることはやめませんか?

顧問医師:中川 晶
平成31年4月

中川晶先生プロフィール

中川晶先生プロフィール

 産経新聞の『中川晶の"生き方セラピー"』でご存知の方もおられると思います。
10年来お付き合いいただいている私共が言うのもなんですが、それはもう愉快な方で、一度語り始めると尽きることがないかのように実に幅広い、しかも有益で面白い話題が湧き出てくるのです。これはおそらく、一度や二度ではない挫折体験と、森羅万象に対する、特に人間に対するとてつもない興味がなせる技だと思えます。受験生についてもご自身の実体験と、臨床心理士としての深い洞察から、真の受験生の心の友となっていただけること請け合いです。先生のユニークで的を得たお話しを、お楽しみください。

  • 奈良学園大学保健医療学部教授
  • 大阪大学医学部講師
  • 心療内科医・臨床心理士
  • 京都大学講師
  • なかがわ中之島クリニック院長
  • 大阪医歯学院顧問医師
<著書・共著>
「心療内科のメルヘン・セラピー」(講談社)
「やすらぎが見つかる心理学」(PHP)
「心理療法」(朱鷺書房)
「ココロの健康からだの医学」(フォーラムA)父(故人)中川米造先生との共著 他

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